ロジャー・W・スミス――シリーズ2 オープンダイヤルから知る工房の時計作り

展示されたロジャー・W・スミスのシリーズ2 オープンダイヤル参考個体。針の下に内部の部品が見え、茶色の革ベルトが付いている。 独立時計師・超高級時計
シリーズ2 オープンダイヤルの参考個体。製作年・ケース素材・脱進機世代は未特定で、現行シリーズ5の写真ではありません。出典にある「2008」は個体の製作年として採用していません。撮影:Geni / Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0。長辺1800pxへ縮小・JPEG再保存。トリミング・内容の改変なし。表示用画像もCC BY-SA 4.0。

文字盤を眺めると、針の下に歯車や金属の部品が見える。ロジャー・W・スミスの「シリーズ2 オープンダイヤル」は、普段は時計師しか目にしない文字盤下の仕事を、持ち主にも見せようとした作品です。

ここで注目したいのは、機械が見える外観と、それを作る工房の関係です。誰が設計し、どこで部品を作り、何を手で仕上げるのか。「手作り」という言葉を工程ごとに分けると、この時計の特徴が見えてきます。

本記事では、公式沿革で2010年に登場したと説明されるシリーズ2 オープンダイヤルを入口に、マン島の工房の製作方針を紹介します。2019年に名称が変わった後継のシリーズ5とは区別します。出典:ロジャー・W・スミス公式・Evolution

展示されたロジャー・W・スミスのシリーズ2 オープンダイヤル参考個体。針の下に内部の部品が見え、茶色の革ベルトが付いている。
シリーズ2 オープンダイヤルの参考個体。製作年・ケース素材・脱進機世代は未特定で、現行シリーズ5の写真ではありません。出典にある「2008」は個体の製作年として採用していません。撮影:Geni / Wikimedia Commons、CC BY-SA 4.0。長辺1800pxへ縮小・JPEG再保存。トリミング・内容の改変なし。表示用画像もCC BY-SA 4.0。

オープンダイヤルは、何を見せる時計なのか

普通の時計では、時刻を読むための文字盤が内部の機械を覆っています。オープンダイヤルは、その下にある部品や仕上げを見せる構成です。表側から見えるものが増える一方で、針や目盛りをどう配置して時刻を読ませるかも重要になります。

メーカーの説明では、この作品の狙いは、通常は持ち主から見えない文字盤下の構造を示すことでした。公式沿革は、その見どころとして、つやを抑えた金色のプレートと、磨きや面取りを施したスティール部品を挙げています。出典:公式・オープンダイヤルの成り立ち

掲載した展示写真でも、針の奥にある明るい面と暗く見える部品を確認できます。ただし、展示照明やガラスの反射がある写真です。細部の仕上げの良否や個体の状態を判定するための写真としては扱いません。

この作品を理解するには、透けて見えることだけでなく、「本来はどこに隠れていた部分を、見えるようにしたのか」を考えるのが近道です。

開いた文字盤にも、時刻以外の表示がある

シリーズ2を読むうえでは、内部が見える外観に加え、パワーリザーブ表示にも目を向けたいところです。公式沿革は、シリーズ2がこの機能を備えたことを説明しています。パワーリザーブは、ゼンマイに蓄えられた動力の残りを示す表示で、日付や経過時間の計測とは役割が異なります。公式・シリーズ2の成り立ち

具体例として、後掲の落札記録にあるNo.09-ODでは、主催者が巻き上げ残量の表示と小秒針のリングを文字盤に残したと解説しています。青いローマ数字は内部の上に浮かぶように配置され、機械を見せながら時刻を読む目印にもなっています。これは出品された一本についての記述で、冒頭の展示写真と同一個体だと示すものではありません。Phillips・No.09-ODの文字盤解説

見る順番を、時針と分針、秒表示、巻き上げ残量、背景の部品というように分けると、仕上げの鑑賞と表示の読み取りを両立できます。穴の多さや見える歯車の数だけで、時計の機能の多さを判断することはできません。

工房で作る範囲と、専門メーカーに頼る範囲

公式の製作方針では、時計の設計・製造・組み立てをマン島の工房内で行い、専門性の高い一部の部品を除いて、原材料から部品を作ると説明されています。出典:公式・Philosophy

一方、ひげぜんまい、主ぜんまい、受石、サファイアクリスタル、シール、ストラップは専門メーカーから調達すると明記されています。したがって、「工房製」という説明を、すべての素材や部品を例外なく自作しているという意味に広げることはできません。出典:公式・Workshop

工程を分けると、読み方が整理できます。

  • 設計:どの機構を、どのような配置で時計に収めるかを決める。
  • 部品製作:工房で作るものと、専門メーカーから調達するものを区別する。
  • 仕上げ:加工した部品の面や縁に、狙った表情を与える。
  • 組み立て:部品を組み合わせ、一つの時計として完成させる。

これらを知ると、単に製作者の名前を覚えるだけでなく、その名前のもとでどのような仕事が行われているかを理解できます。ロジャー本人が全工程を一人で担当しているという説明にも置き換えないことが大切です。公式資料は、工房の時計師による組み立てを説明しています。出典:公式・工房内での製作と組み立て

手仕事と機械設備は、両方を見て考える

手作りの時計と聞くと、古い道具だけで完成させる姿を想像するかもしれません。しかし公式の工房紹介では、ジョージ・ダニエルズから受け継いだ設備と、先端技術を併用していると説明されています。出典:公式・Workshop

ここで分けたいのは、機械を使うかどうかと、どの作業を人の手で行うかです。部品を加工する設備、面を整える道具、仕上がりを確かめる作業は、それぞれ役割が違います。「手作り」という一語だけでは、その違いは伝わりません。

オープンダイヤルを見る際も、部品が複雑に見えるかだけでなく、面の仕上がり、縁の形、隣の部品との重なりを分けて観察すると、製作工程への関心につながります。

仕上げの違いが、奥行きを作る

工房は特徴的な仕上げとして、フロスト仕上げと金色の仕上げを施したプレート、ブラックポリッシュのスティール部品、熱で青く発色させたねじ、手動の旋盤による文字盤の模様加工を挙げています。これは現在の工房全体の説明で、すべての工程が掲載個体の見える部分にそろっているという意味ではありません。出典:公式・Workshopの仕上げ説明

見るときは、まず広い面の質感、次にその面を区切る縁、最後に重なりの順序をたどってみます。金属の色だけを眺めるよりも、部品がどの高さにあるかを感じ取りやすくなります。

オープンダイヤルには、その違いを表側から楽しめる面白さがあります。時計を薄く透かして見せることと、機械の厚みや存在感を見せることは、同じではありません。この作品では、部品が置かれた空間にも目を向けてみてください。

コーアクシャル脱進機は、世代を添えて読む

コーアクシャル脱進機は、師であるジョージ・ダニエルズが考案した仕組みで、スミスの時計作りでも重要な位置を占めています。スミスはその開発を継続していると公式に説明しています。出典:公式・Philosophy

ただし、同じシリーズ名でも内部の世代は一定ではありません。公式沿革によれば、2019年のMark 2導入に伴い、シリーズ2 オープンダイヤルはシリーズ5という名称になりました。出典:公式・2019年のモデル展開

そのため、現在の工房が説明する脱進機の仕様を、古い展示個体へそのまま当てはめることは避けます。写真の製造番号や対応する資料が分からなければ、その一本の内部仕様までは確定できません。

また、摩耗や整備間隔を改善するというメーカーの開発方針と、個体の整備が不要であることは別です。仕組みを理解する話と、実際の保守条件は分けて読んでおきましょう。

出品資料の「年」と完成時期も分けて読む

No.09-ODの落札ページでは、概要欄の年が2017年、機械の刻印が「MMXVII」と記されています。一方、解説文には2015年1月に注文され、2018年初めに完成したとあります。同じページに複数の年が出てきても、それぞれが注文、刻印、完成のどれを指すのかを確認する必要があります。ここでは2017年という欄の記載を、完成・納品時期まで一律に示す数字としては扱いません。Phillips・概要欄と出品解説

工房の公式紹介にも、製作に最大2年を要する場合があると記されています。これは製作工程の説明で、新規注文から受け取りまでの待ち時間を保証する数字ではありません。注文の受付状況と、一本を作るための時間を区別すると、少量製作の時計についての説明を読み違えにくくなります。公式・工房の製作期間

作品の歴史と、写真の年代を混同しない

今回の写真は、出典では「シリーズ2 オープンダイヤル」として公開されています。ファイル名と説明には「2008」とありますが、メーカーの現行沿革は最初のオープンダイヤルの登場を2010年としています。ここでは写真の個体を2008年製と断定せず、製作年・ケース素材・脱進機世代が未特定の参考個体として掲載しています。

時計を知るためのモデル史と、その一本を識別する情報は別です。この区別を保つことで、昔の作品の写真を現在の仕様の証拠にしてしまう読み違いを防げます。

シリーズ2 オープンダイヤルは、工房での仕事を考える入口になる時計です。普段は隠れている場所へ目を向けると、時刻表示の奥に、部品を作り、仕上げ、組み合わせる仕事があることを実感できます。

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情報確認日:2026年10月9日。メーカーの公開資料と展示写真による解説です。工房を訪問した体験談や、実機の性能試験ではありません。

Series 2 Open Dialの具体的な落札価格

価格確認日:2026年9月28日(落札額と個体情報は2026年10月9日にも再確認)。2022年のThe New York Watch Auction: SIX、ロット11の結果です。

対象・仕様価格区分・出典
Series 2 Open Dial/No.09-OD
プラチナ・40mm/オープンダイヤル
USD 840,700過去の落札結果表示額(買い手手数料込み)
価格の出典

本文写真の製作年未特定の参考個体や、工房への新規注文の価格ではありません。ケース番号と仕様が一致する出品個体の記録として読みます。主催者が公表した特定個体の過去の結果です。現在の新品価格や全個体の買取相場ではありません。取引通貨のまま示し、円換算はしていません。買い手ごとの税・送料等の最終請求内訳は未確認です。

価格・在庫・受付条件は変わることがあります。購入や依頼の際は、対象の仕様と最新の支払総額をご確認ください。