文字盤の下側に開いた大きな窓。その奥で傾いた機構が回り、ケースもその場所に沿ってふくらんでいる。グルーベル フォルセイの「トゥールビヨン24セコンド・インクリネ」は、機械の構造が時計の外観にまで表れた作品です。
見どころは、25度に傾けたトゥールビヨンが24秒で一周する仕組みと、それを見せる非対称の形にあります。ここでは、公式アーカイブが2007〜2017年の製作期間として整理するトゥールビヨン24セコンドを取り上げます。後発の「ヴィジョン」「コンテンポラン」「アーキテクチャー」とは区別して読み進めてください。出典:グルーベル フォルセイ公式・作品アーカイブ

まず、写真の三つの場所を見る
掲載写真では、中央の時針・分針に加え、右上に「72」から「0」へ並ぶパワーリザーブ表示、下側に機構を見せる開口部が確認できます。パワーリザーブは、時計があとどの程度動くかを示す表示です。
最初は、中央で時刻を読み、右上で残りの駆動時間を確認し、最後に下側の機械を見る。この順で視線を動かすと、情報を表示する部分と、機構そのものを見せる部分が分かれます。
開口部の右側には小秒表示があります。「24秒」というモデル名は、この時計の一分が24秒であるという意味ではありません。何が24秒で動くのかを理解することが、作品を読む最初のポイントです。
トゥールビヨンは、何を回しているのか
機械式時計では、テンプとひげぜんまいの振動が時を刻む基準となり、脱進機が歯車の動きとその振動をつなぎます。トゥールビヨンは、これらの機構をケージと呼ばれる回転枠に収めたものです。
一般的なトゥールビヨンでは、その枠が一分で一周します。時計が同じ向きに置かれていても内部の姿勢を変え、重力に関連する進み遅れの偏りをならすことを狙います。歴史的には、縦向きで携帯される懐中時計の課題から生まれた仕組みです。出典:FHH・トゥールビヨン用語解説
見える動きも二つに分けられます。テンプが往復する振動と、それを収めた枠がぐるりと回る動きです。両者は同じ速さではありません。トゥールビヨンを眺めるときにこの区別を持つと、何が動いているのかをつかみやすくなります。
「24秒」と「25度」が示す設計
この作品では、ケージが24秒で一周します。一分一周の方式と比べると、回転速度は60÷24=2.5倍です。これは回転の速さの比較であって、精度が2.5倍という意味ではありません。
さらに回転機構を25度に傾け、速い回転と組み合わせています。メーカーは、この組み合わせによって、とくに時計の姿勢が安定している場面での歩度性能を改善することを狙ったと説明しています。そのために、軽いケージと傾斜に対応する歯車の構造を開発したとしています。出典:グルーベル フォルセイ公式・機構説明
ここで興味深いのは、一つの変更が他の設計にもつながることです。回転を速くするだけではなく、動かす部分の重さや力の伝え方も考える必要がある。機構を小さな動く彫刻のように楽しみながら、その動きを成立させる工夫も読める作品です。
なお、メーカーが説明する設計上の目的と、個体を実測した結果は区別します。トゥールビヨンを備えることだけで、あらゆる時計より正確だと結論づけることはできません。
24秒の回転と、毎時21,600振動を分ける
公式仕様にある毎時21,600振動は、テンプの片道の動きを数えた値です。1秒に直すと6振動、往復なら3回となります。一方、24秒はテンプなどを収めるケージが一周する時間です。速く往復する動きを、よりゆっくり回る枠が運んでいると考えると、二つの周期を整理できます。公式アーカイブ・振動数と回転周期
数字で追うと、24秒の一周の間にテンプは72往復します。これは公称振動数からの計算で、映像や実機を数えた結果ではありません。また、48秒でケージは2周し、60秒では2周半です。小秒針が一分を示す周期とケージの回転が一致しないため、回転枠を通常の秒針として読もうとすると混乱します。
72時間の表示は、回転の速さではなく動力の残り
右上のパワーリザーブ表示は、動力がどれだけ残っているかを読むためのものです。公式の公称値は72時間で、時間に換算すれば3日分に相当します。24秒ごとの回転を数える表示や、一日に何秒ずれるかを示す精度表示ではありません。時刻、小秒、回転機構、動力残量の四つを別々に見ると、文字盤の情報が整理できます。公式・表示機能とパワーリザーブ
たとえば残量が減ったときも、時計が動いている間の時刻は中央の針で読みます。残量の針は「いま何時か」ではなく、その後どれだけ動けるかの目安です。機械の動きを眺めるだけでなく、巻き上げを考えるための情報が同じ面に置かれているところにも注目できます。
非対称のケースは、機構を見せるための形
写真では、トゥールビヨンの周辺だけケースが張り出し、その側面にも窓が設けられています。文字盤の平面に小さな穴を開けただけの構成とは違い、機械が収まる空間そのものを外から意識できる形です。
メーカーも、トゥールビヨンを中心からずらした配置が、非対称のケースと文字盤の構成につながったと説明しています。出典:グルーベル フォルセイ公式・ケースと表示の構成
写真を見直すと、中央の時刻表示を覆い尽くさずに、下側へ視線を誘う配置になっています。日常的に時刻を読む面と、機械を鑑賞する空間を、同じ時計の中にどう収めるか。その答えの一つが、この輪郭です。
仕上げを見るなら、形の境界に注目する
掲載写真では、機構を横切る明るい橋状の部品と、その奥の暗い面が対照を作っています。ケースでも、光を強く返す縁と、細かな筋が見える面とで表情が変わります。こうした境界を追うと、立体構造を見分けやすくなります。
ブランドは仕上げの方針として、手で磨く面取りやスティール面の鏡面仕上げなどを挙げています。ただし、これは工房全体の説明です。この写真だけから、各部位にかかった時間や加工の全工程まで断定することはできません。出典:グルーベル フォルセイ公式・Art of Invention
楽しみ方としては、まず形を見る、次に面の違いを見る、最後にその境界を見る、という順番がおすすめです。細かな部品を一度に覚えるよりも、奥行きがどう伝わるかに注目する方が、この時計の特徴をつかめます。
同じ「24セコンド」でも、作品名を最後まで読む
トゥールビヨン24セコンドという機構名は、複数の作品に使われています。たとえば「ヴィジョン」は、公式アーカイブでも独立した作品として扱われています。共通する機構の名前だけで、ケースや表示、寸法まで同一だとは判断できません。出典:公式・Tourbillon 24 Secondes Vision
今回の写真は、出典で2007年の「Tourbillon 24 Secondes Incline」と説明されるメーカー提供写真です。特定の中古販売個体や現在の販売在庫を示すものではありません。
この作品の魅力は、傾けて回すという発想が、機構の配置、ケースの輪郭、光の見せ方へつながっていることにあります。複雑な機械が入っているという説明から一歩進み、その機械のために時計全体がどう形作られたのかを見ると、グルーベル フォルセイの作品をより具体的に楽しめます。
ヴィジョンは、裏側のドームへ空間を取る
後発のヴィジョンでは、傾いたトゥールビヨンを収めるため、裏側のサファイアにドーム状のふくらみを設けています。今回のインクリネが側面への張り出しを見せるのに対し、ヴィジョンは裏側へ必要な空間を取る工夫として読むことができます。同じ傾斜と回転周期でも、どの方向へ空間を広げるかで時計の輪郭が変わります。公式・ヴィジョンのサファイアドーム
公式アーカイブは、今回のトゥールビヨン24セコンドを2007〜2017年・144本、ヴィジョンを2015〜2019年・55本として整理しています。この数字は各作品の記録であり、24秒で回転する機構を使う全作品の合計ではありません。見た目を比べるときも本数を調べるときも、作品名を最後まで対応させることが大切です。公式・144本の対象、公式・55本の対象
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情報確認日:2026年10月5日。公式資料と許諾済み写真による作品解説です。実機の精度測定・装着レビューではありません。
トゥールビヨン24セコンドの落札例
価格確認日:2026年10月5日。The Geneva Watch Auction: XIV、ロット194の結果です。
| 対象・仕様 | 価格 | 区分・出典 |
|---|---|---|
| Tourbillon 24 Secondes Incliné/ロット194 2008年製・18Kホワイトゴールド・43.5mm | CHF 176,400 | 過去の落札結果表示額(買い手手数料込み) 価格の出典 |
ジャン=クロード・ビバーの旧蔵品であることを記した証明書が付属する個体です。この来歴も価格条件の一部であり、同機構の時計一般の価格とは区別します。主催者が公表した特定個体の過去の結果です。現在の新品価格や全個体の買取相場ではありません。取引通貨のまま示し、円換算はしていません。買い手ごとの税・送料等の最終請求内訳は未確認です。
価格・在庫・受付条件は変わることがあります。購入や依頼の際は、対象の仕様と最新の支払総額をご確認ください。


