時計の発売当初の価格は、その製品がどの時代に、どの仕様で登場したかを知る手がかりです。生産数は、作り手がどれだけの数量を送り出したかを考える資料になります。ただし、価格にも本数にも、似ているようで別の数字があります。
発売時に発表された希望小売価格、数年後の店頭掲載価格、限定数量、後年のアーカイブ集計。この記事では、具体的な時計の記録を通して、数字が表す範囲を整理します。歴史・番号資料の再確認と改稿:2026年10月10日。
初代アストロン――1969年の45万円が指す時計
セイコー公式サイトの解説は、1969年12月25日に発売された「クオーツ アストロン 35SQ」について、発売時の18Kイエローゴールド製モデルの価格を45万円と記しています。翌年にはステンレススティール製も登場しました。セイコー公式・アストロンの歩み
ここで価格に結び付いているのは、1969年の金製クオーツ腕時計です。「アストロン」という名前だけを頼りに、別の素材や後年のGPSソーラーモデルへ同じ発売価格を当てはめることはできません。
記録するときは「1969年発売の35SQ、18Kイエローゴールド、発売当時45万円」と、時期と仕様を一緒に残します。本稿では当時の表記を用い、現代の税表示や現在の貨幣価値への換算を付け足していません。開発の流れはセイコー史でたどれます。
グランドセイコー――発売前の発表で価格と限定枠を確認する
グランドセイコーの2025年4月1日発表には、スプリングドライブ U.F.A.の2モデルが並びます。いずれも同年6月6日を発売予定日とした、日本向けの発表資料です。
| 型番 | 主な外装 | 発表時の希望小売価格 | 数量に関する発表 |
|---|---|---|---|
| SLGB001 | プラチナ950ケース、革ストラップ | 5,500,000円(税込) | 世界限定80本、うち国内40本 |
| SLGB003 | ブライトチタンのケース・ブレスレット | 1,518,000円(税込) | レギュラーモデル。総生産数の記載なし |
出典:グランドセイコー・2025年4月1日の発表。表は発表日時点の情報であり、現在の価格・在庫を示すものではありません。
国内40本は世界80本の内数です。足して120本にすることはできません。また、この資料が示すのは限定枠であり、80本すべてが完成した日や販売済みとなった日までは読み取れません。
同様に、レギュラーモデルという説明から、年間の製造本数や累計生産数は求められません。「限定数を設けたとの記載がない」と「大量に生産された」は別の判断です。資料の空欄を、推測した数量で埋めないことが大切です。
サントス――日付のある価格でも、発売価格とは限らない

大丸福岡天神店の時計売場を運営する福岡今岡の紹介ページには、サントス ドゥ カルティエ MM「WSSA0029」が1,122,000円(税込)、2024年6月5日現在と掲載されています。販売店によるWSSA0029の紹介
この資料から確認できるのは、その日付を付した掲載価格です。日付があるからといって、2024年6月5日がモデルの発売日であるとは言えません。資料の発表日、製品の発売日、価格の適用日は、それぞれ別に確認する必要があります。
発売当初の価格を調べるなら、対象型番が登場した際の発表や当時の価格表までさかのぼります。見つからない場合は「発売当初価格は未確認、2024年6月5日付の掲載価格は確認済み」と分けて記録できます。サントスの系統と仕様はモデル解説を参照してください。
ロイヤル オーク15002――限定枠ではなく、後年の総生産集計
オーデマ ピゲの公式アーカイブ「AP Chronicles」は、ロイヤル オーク15002について、1996〜2002年の総生産数を206本と掲載しています。発売前に設定した限定枠とは異なる、過去の生産を振り返る数字です。AP Chronicles・15002
ただし、同ページには年別の説明や素材別内訳に整合しない箇所があります。本稿の206本は、公式ページが掲げる総数として紹介するもので、原台帳を独立に照合した結果ではありません。年ごとの生産表は作成せず、不整合が残ることを併記します。
また、15002全体の数字を、特定の素材や文字盤だけの数量として使うことはできません。総生産数が分かっても、現存本数、未修復の本数、ある時点で購入可能な本数は、別の調査対象です。
ロイヤル オーク14802――計画と販売記録を別々に読む
同じAP Chroniclesの14802ジュビリーのページには、製作計画1,000本と、1992〜2002年の販売集計998本が記されています。AP Chronicles・14802ジュビリー
差の2本をそのまま「未完成だった」「失われた」と説明する根拠にはなりません。計画と販売集計では、数えている段階が異なるからです。同ページには計画達成を述べる説明もあり、数量の差を解消する原記録までは本稿で確認できていません。
さらに、同資料は14802STのサーモンピンク文字盤の本数を、アーカイブでは明らかにできないと説明しています。型番全体の記録があっても、文字盤別まで同じ細かさで分かるとは限りません。
「何本」の前に、何を数えた数字かをそろえる
| 数字の種類 | 表すもの | その数字だけでは分からないこと |
|---|---|---|
| 発表された限定数量 | 対象仕様に設定された数量の枠 | 完成・出荷・販売が済んだ本数 |
| 生産集計 | 資料が定義する期間・対象の製造数量 | 現在まで残る本数、売りに出ている本数 |
| 出荷・販売集計 | 記録上、出荷または販売された数量 | 最終所有者の人数や現在の所在 |
| 現存確認数 | 調査で存在を確認できた個体数 | 未発見・非公開の個体を含む総数 |
| 出品件数 | 調べた市場で見つかった掲載件数 | 重複出品を除いた個体数や総生産数 |
販売という言葉も、メーカーから販売先への出荷を指すのか、店舗から購入者への販売を指すのかで意味が変わります。資料に定義がないときは、自分で範囲を広げず、資料の表現に沿って記録します。
番号が「80分の40」のように記されていても、それだけで40番目に完成・販売された個体とは断定できません。番号の役割と、製造・販売の順番との関係は別途確認します。この点は、番号・販売方法の記事で掘り下げています。
内訳の足し算で、説明が変わっていないか確かめる
14802の公式記録では、素材別の販売総数がスティール692本、イエローゴールド286本、プラチナ20本と記されています。合計は998本で、同ページの販売集計に一致します。一方、計画段階の700・280・20本を足した値は1,000本です。この二組を混ぜて一つの内訳にしてはいけません。AP Chronicles・素材別の販売記録
この足し算は、ページ内でどの数字が対応するかを確かめる作業です。生産計画を達成したとする説明との食い違いまで解消するものではありません。小さな差でも、理由が資料に示されていなければ未解明のまま残します。
同じ価格欄でも、調べる問いによって資料が変わる
「発売時にどの価格帯を狙った時計か」を知りたいなら、当時の発表や価格表が出発点です。「今その一本を買うのにいくら必要か」なら、現在の個体と販売条件を確認します。前者の数字が見つかっても、後者の見積もりを代わりに埋めることはできません。
比較メモには、資料に書かれた日付と、自分がその資料を確認した日付を別々に残します。1972年の価格を今日読み直しても、価格の時点が今日になるわけではありません。後から資料が更新された場合も、どの記述をもとに判断したかをたどれるようになります。
調べた結果は、対象・時点・根拠を一組で残す
価格は、型番と素材、国・通貨、価格の種類、適用日、税の表記、出典を一緒に控えます。本数は、対象の範囲、集計期間、計画・生産・出荷・販売の別、資料の作成者をそろえます。原資料に食い違いがあれば、その点も残します。
たとえば「SLGB001は、2025年4月1日の国内発表で税込550万円、世界限定80本とされた」という記録なら、確認できた内容が伝わります。「550万円で80本売れた」と書き換えると、価格と数量の両方に、資料で確かめていない意味が加わってしまいます。
発売価格や本数を知ることは、時計の成り立ちを具体的にする作業です。現在の取引条件については、定価と市場価格の違い、生産終了と希少性の考え方で別に整理しています。
あわせて読みたい:ロイヤル オークとは?1972年の歴史と、ジャンボ・自動巻き・オフショアの違い
公式アーカイブで確認できる発売当時の価格
価格資料の再確認日:2026年10月10日。ここでは現在の定価ではなく、オーデマ ピゲの公式アーカイブが記録する1972年の価格を示します。
| 対象・仕様 | 価格 | 区分・出典 |
|---|---|---|
| ロイヤル オーク 5402 1972年のスティール製モデル | CHF 3,300 | 公式アーカイブに記載された当時価格(税区分未確認) 価格の出典 |
発売当初価格の実例として、年・型番・通貨・出典を一緒に残したものです。限定計画本数や実生産数は、この価格と別の資料で確認する項目です。 CHFはスイスフランです。元資料のこの記載では税区分を確定できていません。現在の為替で円換算した額を当時の国内定価としたり、別世代の現行価格と比べて投資収益率を計算したりしないでください。
価格・在庫・受付条件は変わることがあります。購入や依頼の際は、対象の仕様と最新の支払総額をご確認ください。


