ミルガウスは、磁場のある仕事場で機械式時計の精度を守るために生まれたモデルです。稲妻形の秒針や緑色の風防が目を引きますが、外から見えない内部シールドも重要な特徴です。
本稿では誕生の背景、代表的な旧型、2007年以降の世代を整理します。資料確認日:2026年10月7日。現行商品の比較ではなく、歴史的なモデルの解説です。

科学の現場と、1956年のミルガウス
ロレックスの公式歴史ページは、1956年のミルガウスとしてRef.6541を掲載しています。科学機器などが生む磁場による時計への影響に対応し、機械を保護する内部シールドを設けたモデルです。同ページには、CERNの研究者が試験を行ったことも記されています。ロレックス・技術革新とミルガウス
名称の「ミル」はフランス語の千に由来します。メーカーの旧製品資料は、ミルガウスの耐磁性能を1,000ガウスと説明しています。これは磁場に関する値であり、防水深度とは別の性能です。ロレックス・ミルガウス旧製品資料、PDF2頁
CERNで試験されたことと、すべての研究者に一律に支給されたことは同じではありません。本稿では確認できた試験の記録までを扱います。
6541から1019へ、外観も変わる
Phillipsが扱った1958年のRef.6541は、ハニカム文字盤と稲妻形の秒針を持つ個体です。出品記録では径38mm、自動巻きキャリバー1066とされています。これらは同出品個体の記載で、初期ミルガウスの全個体にそのまま広げるものではありません。Phillips・6541の出品記録
後のRef.1019では外観が大きく変わります。Phillipsのモデル解説は、滑らかなベゼル、黒またはシルバーの文字盤、赤い矢印先端を持つ直線的な秒針を紹介しています。すべてのミルガウスが稲妻形の秒針を備えるわけではありません。Phillips・1019の外観の変化
機械の具体例として、同社の1968年頃の1019の出品記録にはキャリバー1580が記載されています。Phillips・1019の出品記録
初期の6543と6541の位置付け、1019への正確な移行時期には、今回参照した資料間で記述の違いがあります。ここでは一つの完全な年表へ統合せず、公式の1956年という節目と、型番・年代を特定した実例を分けています。
三つの世代を、秒針と文字盤から見分ける
ミルガウスの歴史は、稲妻形の秒針が一直線に受け継がれた歴史ではありません。ここで挙げた6541では、細かな格子を思わせるハニカム文字盤と稲妻形の秒針が組み合わされます。1019では直線的な秒針となり、滑らかなベゼルとともに、より整然とした外観になります。2007年以降の世代では稲妻の輪郭が戻り、オレンジ色が強いアクセントになります。Phillips・世代ごとの意匠
この順に見ると、稲妻形ではない1019も、耐磁時計としての系譜の一部だと理解できます。外観から調べる入口は、まず秒針の形、次に文字盤の地の模様、そして風防の色です。ただし、これは資料を探すための整理方法であって、三つの特徴だけで個体の真贋や部品の交換歴を判定する手順ではありません。
2007年の復活と、116400・116400GV
Phillipsの解説では、2007年にミルガウスが復活し、40mmケースとキャリバー3131を採用した世代になったとされています。稲妻形の秒針も、鮮やかなオレンジ色で戻りました。同解説は、2014年に116400GVのZブルー文字盤が追加されたことも記録しています。Phillips・新世代とZブルー
116400と116400GVを比べるときは、文字盤の色だけでなく風防も確認する必要があります。GVの特徴は緑色のサファイア風防です。メーカーの旧製品資料では、この緑色風防を2007年に導入したと説明しています。ロレックス・緑色風防、PDF3頁
緑色に見える縁と、その下にある文字盤は別の部品です。「GVだから文字盤も緑」「GVならすべてZブルー」という読み方はできません。参考写真は、風防の縁と稲妻形の秒針を見るための実例として掲載しています。
緑の風防と青い文字盤は、別々に登場した
116400GVを理解する鍵は、2007年の緑色サファイア風防と、2014年のZブルー文字盤を別の節目として覚えることです。後者は前者を置き換えたものではなく、緑色の風防と青い文字盤を組み合わせた仕様です。風防・文字盤・秒針という三つの部品に、それぞれ緑・青・オレンジの色が配されています。Phillips・GVとZブルーの登場時期
そのため、写真で青く見える面と緑に見える縁をひとまとめに「文字盤の色」と書くと、仕様の説明が曖昧になります。型番のGVという末尾に加えて文字盤色も併記すると、黒文字盤のGVとZブルーのGVを分けて比較できます。本稿の参考写真と下表を読み合わせる際にも、この区別が役立ちます。
耐磁性は、外観と内部構造を分けて考える
116400GVの公式資料は、強磁性合金製の内部シールドが機械を囲む構造を説明しています。搭載する3131は自動巻きで、青いパラクロム・ヘアスプリングを備えます。ロレックス・内部シールドと3131、PDF4〜5頁
内部シールドで機械を保護することと、機械の部品自体に磁気の影響を受けにくい素材を使うことは、設計上の別の要素です。稲妻形の秒針は外観上の特徴であり、それ自体が耐磁性能の測定器になっているわけではありません。
エアキングの記事で扱った116900にも3131が使われています。ただし、機械の番号が共通でも、文字盤、ケース、風防などが同一の時計になるわけではありません。キャリバーとモデル名は分けて記録するのが適切です。
Zブルー仕様の公表データ
次の表は、メーカーが残す116400GV-0002の旧製品PDFに基づきます。過去の公表仕様であり、流通する中古個体の現在の精度や防水状態を実測した値ではありません。
| 項目 | 116400GV・Zブルーの旧公表仕様 |
|---|---|
| ケース径・素材 | 40mm・オイスタースチール |
| ベゼル | スムース |
| 風防 | 緑色サファイア |
| 表示 | 中央の時・分・秒針、日付なし |
| 機械 | 自動巻き3131、内部磁気シールド |
| 公称パワーリザーブ | 約48時間 |
| 公称防水 | 100m |
| ブレスレット | オイスター、3列リンク |
| 留め具 | オイスタークラスプ、5mmイージーリンク |
出典:ロレックス・旧製品PDF5頁。PDFの版年は本稿では特定していません。2007年発売時の全仕様を、この表だけから復元することも避けています。
約48時間という持続時間は、ランドドゥエラーの約66時間などとは異なります。ブランド名だけで、機械や動作時間まで共通だと思わず、型番ごとの資料を見る必要があります。
見えないシールドに記された、もう一つの印
ロレックスの旧製品資料には、内部シールドに矢印を添えた大文字のBが刻まれていると記されています。磁束密度を表す記号にちなむもので、普段の装着では見えず、シールドへアクセスする時計技師が目にする印です。外側の稲妻形の秒針とは別に、内側にも科学との関わりを示す意匠が置かれています。ロレックス・内部シールドの刻印、PDF4頁
時計を見る楽しみとしては、表側の鮮やかな色と、裏側に隠された構造の両方を知るところに面白さがあります。一方で、刻印やシールドがあることと、現在の個体が公称性能を維持していることは別の問題です。外観の観察、構造の資料、実際の検査結果は、それぞれ異なる情報として読み分ける必要があります。
現行コレクションとの位置付け
Phillipsは、ミルガウスのラインが2023年に終了したと記録しています。Phillips・2023年の終了について
2026年10月7日に確認したロレックスの現行コレクション一覧にも、ミルガウスは掲載されていません。ロレックス・現行コレクション。ただし、一覧への非掲載から工場での最終製造日まで確定できるわけではなく、2023年という記述は上記解説に基づきます。
ミルガウスを理解する際は、耐磁設計という共通の目的と、世代ごとの見た目・機械の違いを並べて見ると整理できます。稲妻形の秒針があるか、緑色風防か、どのキャリバーを持つかという三つの問いだけでも、同じ名前の中にある違いが見えてきます。
あわせて読みたい:IWC インヂュニアの歴史|1955年の耐磁時計と、35・40の機械の違い
ミルガウス1019の過去の落札価格
価格確認日:2026年10月7日。以下は確認日に参照した過去のオークション記録です。表中の開催時点と本日の確認日を区別してください。
| 対象・仕様 | 価格 | 区分・出典 |
|---|---|---|
| ミルガウス Ref.1019 2024年12月・The New York Watch Auction: XI/約1968年製とされた個体 | USD 27,940 | 過去の落札結果表示額(買い手手数料込み) 価格の出典 |
主催者は後年のオイスターブレスレットが付いた個体として説明しています。本文の写真にある116400GVや、初期6541の価格ではありません。型番に加えて装着部品・来歴・状態もそろえて比較するための一例です。 これは主催者の過去の結果表示額で、ハンマープライス単独や売り手の手取りではありません。買い手ごとの税・送料等の最終請求内訳は確認していません。取引通貨のまま示し、現在の円相場や新しい買取相場には換算していません。
価格・在庫・受付条件は変わることがあります。購入や依頼の際は、対象の仕様と最新の支払総額をご確認ください。


